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第20回『このミステリーがすごい!』大賞の「特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来」を読みました

今回は、2022年度第20回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞された小説を、弁理士の視点から紹介させていただきます。

タイトルは「特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来」。そう、特許がメインテーマの小説です。さらに主人公は弁理士なのです。そして、作者の南原詠先生も弁理士です。

私自身、子どもの頃から、ミステリー小説が大好きなので、この受賞のニュースを聞いたときは、とても驚くと同時に、嬉しく思いました。

なにしろ『このミステリーがすごい!』大賞は、注目度も賞金も倍率も非常に高い賞で、歴代の受賞作はこぞって映像化されています。

そんな場に、弁理士という、一般的にはマイナーな職業の主人公が登場するなんて、とてもすごいことではないですか。

ネタバレになってしまってはいけませんので、内容は詳しくは書きませんが、VTuberの撮影技術に関する、特許侵害ものです。私はVTuberについてこれまで見たこともなく、知識もなかったのですが、とても面白く、サクサクと読むことができました。また、特許関連の用語についても、分かりやすい用語と文章で書かれていますので、前提知識がなくても十分に楽しめると思います。なので、特許や弁理士の仕事にちょっと興味があるという方の、とっかかりにもいいかもしれません。

ただ、主人公の弁理士・大鳳未来が行っている特許侵害を扱う業務が、弁理士の仕事としてメジャーでないことは確かだと思います。

通常、弁理士の仕事は、特許や商標等の出願代理業務(いわゆる明細書作成)や、調査業務が多いのではないでしょうか。ただ出願代理業務をドラマチックに仕立てることは難しいので、どうしても小説にする場合には、特許侵害とか、企業同士の知財争いというテーマにならざるを得ないのでしょうね。かの有名な「下町ロケット」などもそうですね。

私などは、この本の中盤に登場する、磯西さんという調査員が、自分の仕事に近いかなぁ、などと感想をいだきました。また磯西さんが、現在は独立しているのですが『前職は「ジャパン技術貿易」』との記載があり、「会社名、知財業界の有名企業のほぼそのまま!」と、思わずクスリと笑ってしまいました。

ちなみに、この小説の争点となる技術について、実際に特許として存在しているのかしら、と気になりましたので、主要な技術概念をキーワードにして検索してみました。

しかし、見つかりませんでした。実際にある技術をもとにしますと、小説にする場合に差しさわりがあるかもしれませんので、南原先生がフィクションとして作成された技術なのかもしれません。

最後になりますが、南原詠先生、『弁理士・大鳳未来』を応援しております。シリーズ化も期待しています!

福嶋久美子

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